2022年11月3日木曜日

【貨幣循環】名目GDPの増減と経済格差の増減の分離 その1

この記事の結論は、「名目GDP(政府支出)の増減と経済格差の増減は切り分けましょう」、です。経済成長の議論ではしばしば「パイの大きさ」と「パイの切り方」の例えが使われますが、それは数式上で明確に分離できます。M=G+Iがパイの大きさであり、平均消費性向βの分布(所得分布)がパイの切り方です。

政府支出を増やして名目GDPが増加すれば自動的に経済格差が縮小するわけではなく、経済格差が縮小すれば名目GDPが必ず増加する訳ではありません。貨幣循環の描像からは、名目GDPの増減は貨幣流の総量の問題であり、経済格差の増減は貨幣流の配分の問題です。

この記事で扱う「名目GDPの増減と経済格差の増減の分離」を明確にすると、以下の表のように、国の発展(人口と財・サービスの増加)のために、政府支出と平均消費性向βの分布および所得分布がどのように作用するかを議論する事ができます。

この表については、次の記事で議論します。

「名目GDPの増減と経済格差の増減の分離」の根拠は、次の2つの方程式です。

  • M=G+I
  • V=Y/(G+I)=1/(1-β)

この数式の導出については、「【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」を御覧ください。数量方程式のMをM=G+Iとおくと、貨幣循環のもとで循環フロー図とGDPの定義を関係づけられます。


内容

  1. 動機
  2. βの平均値とβの分布


1. 動機

この記事の動機は次のツイートです。


【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」において、以下の式が得られました。

  • M=G+I
  • V=1/(1-β)

Mは数量方程式(Y=MV=PQ)の循環する貨幣量、Gは政府支出、Iは国内投資、Vは数量方程式の貨幣の循環速度、βは平均消費性向(β=C/Y)です。

得られた式から、マクロ的なβの平均値が名目GDPに関与している事はわかっていました。今回の記事では、このツイートに触発され、名目GDPの増減(G+Iの増減)と経済格差の増減(βの分布の変化)の分離、つまり名目GDPの増減と経済格差の増減の異なる要素への依存について議論します。


2. βの平均値とβの分布

【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」で述べたように、貨幣循環のもとで循環フロー図、GDPの定義、数量方程式を統合すると、M=G+I、V=1/(1-β)、という関係が得られます。これらの式は、貨幣循環の描像(Y=MV)のもとで、名目GDPの増加(減少)が G+I と βの増加(減少)に依存する事を意味します。

重要な事は、ここに出てくるβがマクロ的な平均値であって、実際のβの分布とは関係が無い事です。経済格差の少ない山型のβの分布であっても、経済格差の極端なL字型分布(β=1近傍が極端に多く、あとはほぼ平坦な分布)であっても、βの平均値が等しければ、それは同じ値の名目GDPを導きます。

例えば以下の2種類のケースを考えます。どちらも平均消費性向βの平均値は0.5です。

  • 100の家計、収入は2、消費に1、貯蓄と納税に1。
  • 99の家計、収入は1、消費に1。1の家計、収入は101、消費に1、貯蓄と納税に100。

家計から消費と貯蓄と納税に流れ出る貨幣量(計測期間を1年と考えると名目GDP)はどちらも200ですが、βの分布には極端な差があります。

このように、「名目GDPの増減と経済格差の増減は切り分け」て考えなければなりません。

これに対して、「G+Iを増加させれば、個々の家計に流れ込む貨幣量が変化し、平均消費性向が変化するだろう。すると、名目GDPの要因であるG+Iと経済格差を示すβの分布は厳密に分離できないのでは?」と考える人もいるかもしれません。以下のグラフは、日本とアメリカの名目GDPと平均消費性向βの推移のグラフです。

日本の名目GDPとβ=C/Yの推移。1955年以降。二種類のデータは異なるGDPの定義(測定方法)。

アメリカの名目GDPとβ=C/Yの推移。1955年以降。

私はこのβの安定した推移の原因を説明できませんが、日本では名目GDPが桁で変化している間、平均消費性向の平均値は0.5から0.6程度の狭い範囲を推移しています。アメリカでは、0.6から0.7へと増加しています。アメリカは常に移民を受け入れ、彼らの多くが経済活動の最底辺に位置するため、βの増加は定性的には考えられます。

しかし日本において、βの平均値をほとんど一定にするような分布の変化の仕組みは簡単に思いつきません。かつては「一億総中流社会」と呼ばれた時代があった一方、現在では経済格差は拡大し、多くの国民は困窮しています。

ともあれ観測事実として、日本においてβの平均値は過去70年間ほぼ一定と考えてよいでしょう。しかし、平均消費性向分布と所得分布は大きく変化しました。「名目GDPの増減と経済格差の増減は切り分け」て考えるべきです。根拠をまとめると以下の三点です。

  • 政府は支出G(G+I)を増減させる事ができる。その変化量は政府の任意である。
  • マクロ的なβの平均値は約70年間、ほぼ一定である。
  • 一方で、βの分布は山型(格差縮小)にもL字型(格差拡大)にも変化する。

「マクロ的なβの平均値が一定なのは、日本のデータだけ」と考える人もいるかと思います。読者の何人かは、政府支出と名目GDPの成長率のプロット、あるいは政府収入と名目GDPの成長率のプロットを見た事があるでしょう。「【貨幣循環】政府支出Gの成長率と名目GDPの成長率の関係...」で紹介していますが、これらの成長率は正比例の関係を見せます。この関係は、先に挙げた M=G+I、V=1/(1-β) の関係を使うと、V(β)の成長率が0あるいは微小なら、dY/Y=dM/M として説明できます。dYが年変化量で、dY/Yが年成長率です。

政府支出G と M=G+I はもちろんイコールではありませんが、国内投資Iは政府支出Gに比例しますので、「V(β)の成長率が0あるいは微小である事だけ」が、dY/Y=dM/M の観測値を説明できます。筆者の知る限り、経済学者の皆さんはこの正比例の関係を説明できていません。ちなみに、政府支出と名目GDPの成長率のプロットは、31カ国、20年間平均値のデータです。それらの主要な国々の20年間にわたって、βの成長率は0あるいは微小とみなせるようです。


本記事の結論として、「名目GDPの増減と経済格差の増減の分離」して考えるべきです。冒頭で示した表は、名目GDP(G+I)の増減と経済格差の増減を独立に考え、経済に与える影響をまとめたものです。次の記事では、国を豊かにするための、具体的には人口を増加させ、国民一人あたりの財・サービスの数量を増加させるための名目GDPの増減と経済格差の増減について考えます。数式に基づいた堅固な議論ではありませんが、人間の能力の物理的な限界を根拠に、名目GDPの増減と経済格差の増減を議論します。


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