2022年1月13日木曜日

【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット

本記事では、貨幣循環導入の3点セット、循環フロー図、名目GDPの定義、数量方程式、について説明し、日本経済の貨幣循環の概要を定量的に示す。この3点セットは現代経済学において独立した項目として扱われているが、これらを貨幣循環の観点から統合する。結論として、M = G+I = S+T である。

本記事の内容は以下の通りである。

  1. 3点セットの説明。
  2. 3点セットによる貨幣循環の描像。
  3. 二種類の貨幣流。
  4. 名目GDPから分かる貨幣循環の概要。


1. 3点セット

最初に3点セット、循環フロー図、名目GDPの定義、数量方程式、を示そう。まずは循環フロー図である。画像検索をすれば、循環フロー図(フロー循環図)の類似画像はいくらでも見つかる。

循環フロー図(政府と金融市場無し)


この図の矢印は貨幣の流れを示している。矢印の太さは貨幣の量を示している。この図における貨幣流量の不一致は、政府と金融市場を加味する事で解消される。

そして次は名目GDPの定義(輸出入を考慮しない)である。

  • Y = C+G+I = C+T+S

Yは名目GDPの総額、Cは家計から財・サービス市場への消費支出、Gは政府支出(政府から財・サービス市場への支出)、Iは投資(金融市場から財・サービス市場への支出)、Tは家計から政府への税金、Sは家計から金融市場への貯蓄。ここには2つのキーワードがあり、「家計から」と「財・サービス市場へ」である。共通項であるCには、この2つのキーワードが含まれている。

数量方程式(wikipedia:フィッシャーの交換方程式)は一定期間に財・サービス市場を通過した貨幣量と、財・サービス市場で販売された財・サービスの等価関係を示している。この式のオリジナルは次の形である。

  • MV = PQ

Mは市場を循環する貨幣の総量、Vは貨幣の平均流通速度(循環速度、回転速度)、Pは平均物価、Qは販売された財・サービスの総量である。注意すべき点は、平均流通速度Vである。きちんと定義をしなければならない。この回転速度Vは貨幣が財・サービス市場を通過した時点で+1増加し、そしてQも増加するという事である。

本記事を含め、筆者は「速度」の概念を強調しない。アーヴィング・フィッシャーがこの式を提案した当時1911年のアメリカにおいては速度の概念は妥当に思える。その日暮らしの人々が多く、小規模な商店が多く、貨幣管理が杜撰だからである。しかし現代日本では、実に多くの人々が月給の商習慣のもとで生活している。従って速度としては固定されている。


2. 3点セットの統合

最初に循環フロー図と名目GDPの定義を統合しよう。この両者を矛盾なく説明するためには、循環フロー図の外部に政府と金融市場を想定する。これによって、家計から政府と金融市場へ向かう貨幣流(T+S)と、政府と金融市場から財・サービス市場へ向かう貨幣流(G+I)を想定できる。

Y=C+G+I=C+S+Tと貨幣循環の断面

GDPの定義 Y=C+S+I は、家計と、財・サービス市場・政府・金融市場との間の断面で計測された貨幣量であり、Y=C+G+I は、財・サービス市場と、家計・政府・金融市場との間の断面で計測された貨幣量である。財・サービス市場から家計に至る貨幣流量を一定と考えると、Y=C+G+I=C+S+T が成立する。

次にMV=PQを考慮しよう。上の循環フロー図から説明される貨幣循環とは、以下の過程である。

  1. 貨幣が政府あるいは金融市場から財・サービス市場に流入し、
  2. 財・サービス市場から家計へ、そしてまた財・サービス市場へという循環を何度か繰り返し、
  3. 最後に家計から政府あるいは金融市場へと流出する。

例えば、政府あるいは金融市場から貨幣量mが財・サービス市場に流入し、財・サービス市場を合計3回通過してから、家計から政府あるいは金融市場に流出したとしよう。この時、財・サービス市場を通過するたびにp=mの財・サービスが売れる。それが3回起こったのでv=q=3であり、3m=3pである。

またある時は、貨幣量m1とm2が財・サービス市場を3回通過する中で、一度だけは価格 p=m1+m2 の財・サービスが売れるかもしれない。この時、m1とm2について循環した貨幣量と財・サービスの販売額の和は、もちろん3(m1+m2)=3(p1+p2)である。

そして、財・サービス市場を通過する回数Vが異なる貨幣が存在しても、やはり当然ながら、循環した貨幣量と財・サービスの販売額の和は等価である。このような値の異なる要素の和を全て積算した表現がMV=PQ=∑mivi=∑pjqjである。分かりにくくて申し訳ないが、これらの「i」と「j」は添字である。

そしてこの形式的な理論展開から導かれる一つの結論として、M=G+I=T+S である。そして名目GDP=MV=C+G+I より、V=(C+G+I)/(G+I) である。

家計と企業の貨幣循環に入ってきた貨幣が何回転して出ていくか、それが名目GDPの内訳が示す値、そして事実である。


3. 二種類の貨幣流

ここでは貨幣循環として、一定期間内に政府と金融市場から財・サービス市場に流入した二種類の貨幣流を考えよう。それらのVは、連続するv1とv2であり、v2=v1+1とする。貨幣量をm1とm2としよう。実際に販売された財・サービスの詳細が不明でも、名目GDPは以下の数量方程式から得られる。

  • 名目GDP = m1v1+m2v2

この式を以下のように書き換えよう。

  • 名目GDP = (m1+m2) + (m1[v1-1]+m2[v2-1])

この式は名目GDPの内訳 C+G+I を示している。第1項の (m1+m2) は G+I=S+T を示しており、残りの項は C を表している。次にこの全体を G+I = m1+m2 で割ろう。

  • 名目GDP / (G+I) = (m1v1+m2v2) / (m1+m2)

この式は、名目GDP / (G+I) が、v1とv2についてm1とm2で重み付けした平均値である事を示している。それはつまり、名目GDP / M = V という数量方程式そのものである。

そして、名目GDP / (G+I) = V の値から m1/m2 が得られ、名目GDPに対するm1とm2の値を求める事ができる。これが貨幣循環の概要である。

ただ重要な事は、「二種類の貨幣流」という仮定である。もちろん現実にはより多くのVが存在するだろう。しかし現在の導出の範囲では、3種類以上の貨幣流を考慮できない。活用している既知の値が、名目GDPと名目GDP / (G+I) の二種類なので。


4. 名目GDPから分かる貨幣循環の実態

2017年の名目GDPは546.5兆円、家計消費は295.4兆円であった。そこでG+I=250兆円である。従って、上記の二種類の貨幣流の導出から次の値が得られる。

名目GDP / (G+I) = V ~ 2.2

m1/m2 ~ 4

これらから、v1=2の貨幣量m1は200兆円、v2=3の貨幣量m2は50兆円である。おおまかに。

ここに挙げた値は「マクロフロー経済学 2 貨幣循環、乗数効果、数量方程式」の2.2.3.3節の値とは一割ほど異なる。理由は補正項の存在である。(今ではこの補正項を少し疑わしく思っている)

まとめると、2017年の名目GDPを構成している貨幣流は、おおまかには、200兆円が財・サービス市場を2回通過し、50兆円が財・サービス市場を3回通過していると考える事ができる。

この概算は、貨幣循環の実態に大きな制限を与える。例えば現在の日本では、50兆円が財・サービス市場を9回通過するような実態はありえない。貨幣の大半は、財・サービス市場を2回通過するだけで政府あるいは金融市場に戻っている。


今回の導出は、貨幣循環を定量的に説明するための良い仮説だと筆者は考えている。より良い仮説があればそちらに乗り換えるべきだが、より良い仮説とはより多くの事柄を包括し、単純に説明できる仮説でなければならない。

今回の導出が重要な点は、従来のVの導出方法、名目GDPをM2やM3で割るという導出方法を過去の遺物にできる事である。

3点セットの統合で気づいた人もいるだろうが、GDPの三面等価と Y=C+G+I=C+T+S は、各要素の断面を流れる貨幣流の測定という観点で統合できる。そしてGDPの定義の統合から、数量方程式を拡張できる。これが「マクロフロー経済学 3 貨幣循環の定量解析」の第3章の内容である。これについては以前の記事、「【貨幣循環】名目GDPの定義の統合と拡張された数量方程式」で簡単に解説している。


英文翻訳記事「A three-piece set for understanding the money circulation」


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