内容。
1. ある関係
今回の記事の動機は、以下の図。
非常に面白いのは、歳出(国家予算、G)の成長率と名目GDP(Y)の成長率が1対1である事。この図にプロットされているデータは、31カ国の20年間平均のデータである。本記事では、この関係について貨幣循環の観点で説明する。
この図の元ツイートはこちら。
以下の散布図の解釈について補足。
— ParkSJ 朴勝俊🌹GND 脱原発!グリーン・ニューディール (@psj95708651) November 8, 2020
長期は生産関数でGDPが決まるなら、仮にY=A×K^β×L^(1-β)【Aは技術、Kは資本、Lは労働】としたとき、小文字をそれぞれの成長率として、
y=a+βk+(1-β)l 【エル】
となる。この式に政府支出の伸び率gは含まれない。従って理論上、yとgの相関はゼロのはず。 pic.twitter.com/oauNRLpFuE
2. 貨幣循環による説明
簡単に言うと、蛇口から出る水量(M=G+I)が増えた分、循環する水路を流れる水量(名目GDP)が増えた、という事である。
上の図の関係は以下のように書くことができる。
- dY/Y = dG/G
Y が名目GDP、G が政府支出、dA/A は成長率(= (A2-A1)/A1)である。
この関係は数量方程式から与えられる。
- Y=MV
ここで、M は貨幣循環に与えられた貨幣量、V は循環速度である。この方程式のY、M、Vについて微小変化(dY, dM, dV)を与え、式変形すると以下のように書き換える事ができる。
- dY/Y = dM/M + dV/V
この方程式を得るために二次の微小項dMdVは落としている。(dY/Y、dM/M, dV/Vが1%の桁の時、dMdV/MVは0.01%の桁なので)
上記の変化率(成長率)についての関係式は、名目GDPの成長率がMとVの成長率の和である事を示している。ここで、dV/V=0 (dV/V~0)とM=aG (aは一定値)を仮定すると、上の図の関係式が得られる。
- dY/Y = dG/G
3. dV/V=0 and M=aG
ここで、dV/V=0 と M=aG について説明しよう。これらは我々の貨幣循環についての定量的な観点から出てきたものである。
以前の記事、「【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」において、我々は循環フロー図、名目GDPの定義(Y=C+G+I=C+S+T)、そして数量方程式(Y=MV=PQ)を用いて、M=G+I と V=Y/(G+I)=1/(1-β) を導出した。M=aG とは、G+I=aG、つまりGとIが同規模で成長しているという観測的な事実に由来する。(世界中でaが一定か、までは調べていない)
次に dV/V=0について考えよう。Vの式は、V=1/(1-β) である。そして例えば日本とアメリカのGDPのデータを見るに、βの値、家計支出/名目GDPの比は安定している。1950年代以降、名目GDPとGとIが桁で成長したのに対し、βのとり得る値はせいぜい0から1である。従って、dM/Mに比べ、dV/Vはとても小さいと考える事ができる。
貨幣循環の描像のもとで以上の事実を考慮すると、dY/Y=dG/G という関係式が得られる。需要と供給の均衡を主な仮説とする経済学では、このように簡単な説明はできないだろう。
ちなみに上のシェイブテイルさんのツイートへの返信には、以下のようなコメントもある。
偶然というには強すぎる相関です。しかし、この強い相関を説明する経済学の理論はないようです。経済学では成長は労働力、資本、技術の進歩といった供給側の議論ばかりで、消費や投資、政府支出などの需要サイドからの議論は見たことない。これも経済学の不備でしょうか?
— Hibiki (@ytakesaito) January 7, 2022
英文翻訳記事「A relationship between nominal GDP growth rate and government spending growth rate」
220908 元ツイートを朴さんのツイートに修正しました。
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