本記事の内容は、「マクロフロー経済学 3 貨幣循環の定量解析」の第3章の一部を含む。
本記事では、前記事「GDPと国家予算は膨張する」での理論的根拠とした拡張された数量方程式の導出について説明する。その出発点は、循環フロー図中におけるGDPの定義の統合である。本記事の内容は以下の通りである。
1. 循環フロー図とGDPの定義の統合
きっかけは、循環フロー図とGDPの複数の定義の比較である。経済学において名目GDPの一般的な定義は、 Y=C+I+G=C+S+T であろう。これに加えて、日本では三面等価の原則も説明される。この複数の定義と循環フロー図を見比べて、循環フロー図中のどこで、GDPの複数の定義が計測されているのかをまとめた。結果として、複数のGDPの定義は、循環フロー図中の各断面での貨幣の流れの計測としてまとめる事ができた。
次の図は、循環フロー図における貨幣の流れを示している。
循環フロー図の各断面。 |
以下、政府と金融市場をまとめて「外部」と呼ぶ。家計から出て行く貨幣の流れ、つまり家計と外部及び財・サービス市場の間の貨幣の流れを計測しているのが、Y=C+T+Sである。財・サービス市場へと流れ込む貨幣の流れ、つまり財・サービス市場と外部及び家計の間の貨幣流を測定しているのがY=C+I+Gである。
GDPの三面等価の支出面はY=C+I+Gと同義である。生産面は、生産(そして販売)された財・サービスの総額である。この金額は、財・サービスの販売によって企業が受け取った総額であり、企業と財・サービスの間で計測される。分配面では、全企業から全家計へと貨幣が分配される(株主配当含む)。これは生産要素市場と家計の間の断面で計測される。
改めて認識すると、この統合は自然な事である。循環フロー図は、貨幣、財・サービス、労働力の流れを示しており、それらの流れの大きさは、対価としてイコールで結ばれる。在庫や支払時期の遅れの些末な事柄を無視すれば、原理的に財・サービス市場を通過した貨幣量は、企業が受け取る貨幣量であり、そして家計が受け取る貨幣量である。それは企業が販売した財・サービスの対価であり、家計による労働力の対価である。
従って、この循環フロー図を流れる貨幣量は上の図のどこの断面で測定しても等量である。複数のGDPの定義は、この断面を流れる貨幣の量と、それと等価な労働力と財・サービスの量を測定したものである。
2. 拡張された数量方程式
本来の数量方程式(フィッシャーの交換方程式)は MV=PQ である。これは、貨幣循環の中で財・サービス市場を通過した貨幣量の合計と、企業が販売した財・サービスの総額を結びつけたものである。1年間の測定期間を考えれば、これらの額は名目GDPとなる。
GDPの定義の統合に従えば、数量方程式に別の断面での貨幣量を結びつける事ができる。今回拡張した数量方程式は次のとおりである。
拡張された数量方程式 |
ここで NO と N'PS は、家計の総収入額と全消費者の消費・享受した財・サービスの総量である。家計の総数は N、平均収入額は O、消費者の総数は N'、平均物価はP、一人が消費・享受する財・サービスの総数はS、である。
家計の総収入額NOについては疑問は無いだろう。循環フロー図中の企業から家計への貨幣の流れである。次の N'PS は、消費者が消費・享受した財・サービスの総額である。消費Cによって消費者は財・サービスを購入するが、それ以外の政府支出Gと投資Iによるサービスの恩恵も受けている。このサービスは、教育医療を含む自治体レベルのサービスや、外交防衛などの国レベルのサービス、そして新たな商品と産業の創出などである。
この N' は家計の総数ではなく、消費者の総数つまり人口である。等号を重視するなら、NPSとして「家計」が消費・享受した財・サービスの総量とする事もできる。ただ、消費の主体は個人であると考え、消費者総数を意味する N' とした。ここで消費者総数を採用した事により、家計の総数Nを労働者の総数とみなせば、一人の労働者の生産能力と、一人の消費者が消費・享受する財・サービスの総数を、拡張された数量方程式によって議論する事ができる。
今回拡張した数量方程式が貨幣循環の全てだとは、筆者には断言できない。これは、GDPの定義を統合するための各断面についての議論さえも筆者は十分にしていないからである。これらは次の課題である。
英文翻訳記事「An integration of GDP definitions and an extension of the quantitative equation」
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