2024年7月2日火曜日

科学論文の書き方、#1。節内部、段落内部での「最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」の実践

科学論文の節構成や、結論となる図の重要性についての記事はいくらでもあります。本記事ではそこから一歩踏み込み、節や段落の内部での文章の書き方についてアドバイスします。

私からのアドバイスは、最初に結論(枠組み、詳細に説明する範囲)を伝え、次に詳細を伝える」、この情報伝達の原則を、節内や段落内でも実践することです。これは頻出構文の紹介ではなく、執筆方法の原理の紹介です。

本記事は全4節で構成されます。第1節では、最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことの具体例を示します。第2節では、「文章に疑問を持たせない書き方」の意義を示します。第3節では、「科学論文の書き方」の記事の現状を記します。第4節では、私が昔に最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことを実践して執筆した論文を紹介します。


1. 節内や段落内での実践。具体的には?

1.1 段落内での実践

最初に、一つの具体例を紹介します。

  1. 正解「結論はAです。理由は三点あります。第一はBです。第二はCです。そして第三はDです。」
  2. 半正解「結論はAです。理由は、BとCとDです。」
  3. 不正解「BとCとDから、Aが結論です。」

これらの正解、半正解、不正解の理由を説明します。1は、論文あるいは報告書として正しいスタイルです。ここでの「正しいスタイル」とは、先に挙げたように最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ということです。1では結論を示し、理由の範囲(個数)を示し、最後に理由を詳細に説明しています。

2では、後半の理由を述べている文が1に比べて短文です。こちらのスタイルを好む人もいるでしょう。しかし科学論文を構成する文としては不適切です。1と異なり、理由の個数を最初に提示していないからです。ここでは簡単に「B, C, D」としましたが、これら3つの理由が「○○が▲▲である」のような文(長文)であることもありえます。この場合、Bの説明が終わり、Cの説明が始まる段階でおそらく読者は「理由は残りいくつあるのか?」という疑問を持つでしょう。科学論文においては、読者に、文章について疑問を持たせてはいけません。

3は原則とは逆に、詳細な理由から説明しています。これは私たちが会話文で多用するスタイルです。このスタイルは科学論文では完全に不適切です。科学論文や報告書の執筆初心者は、執筆に慣れないうちはどうしてもこのような不適切な科学論文を書いてしまいます。その理由は、論文執筆者が、自分たちが慣れている会話文での情報の伝え方を頼りにしてしまうからです。

1.2 節全体での実践

上記の具体例は段落内での文章に相当します。いくつかの段落で構成される節全体でも、同じ原則を実践します。つまり節の最初の段落で続く段落についての範囲、見通しを紹介します。結果や議論の節が分かりやすいでしょう。その冒頭で、その節で記述する範囲(この場合は示される結果、議論の内容)について紹介します。データ紹介や数値計算手法紹介の節なら、装置や数値計算手法とそれらの原論文を最初に示し、続いてデータの取得日時や高指数・計算時間などの詳細に進むべきでしょう。

私は天体物理系、地球物理系の論文くらいしか知りませんが、イントロダクションの最後で、「第2節では、、、。第3節では、、、。」と紹介するスタイルは、間違いなく読者に「論文の範囲を伝え、後で詳細に説明する」ことを実践しています。


2. 科学論文で望まれる「文章に疑問を持たせない書き方」

科学論文において、その内容についてではなく、情報を伝える媒体である文章について疑問を持たせてはいけません。文章に疑問を持つということは、情報(論文の内容)がスムーズに得られないことを意味します。これは、読者である、多忙でエネルギー不足になりがちな研究者にストレスを与え、論文を読みたいという意欲を削いでしまいます。

科学論文の目的は科学的成果を伝えることです。伝えた結果、読者である研究者がその結果から新たに「仮説と検証」のプロセスを実践します。一般的な科学研究は失敗の量で成果の量と質が決まります。また優秀であるほど研究者は多忙になってしまいます。よって研究者は、自身と読者の研究時間を極力尊重すべきです。そのために、科学論文においては文章自体に疑問を持たせてはいけません。そしてその具体的な方法は、科学論文の至る所での最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことの実践です。


3. 「科学論文の書き方」の現状

現在、日本の科学論文の執筆教育の根幹は、「頑張って多くの論文を読んで論文のスタイルに慣れよう」、というものです。この教育方法は、節内や段落内での最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことの実践によって大きく改善することができます。

2024年6月末、「科学論文の書き方」をキーワードとして検索すると、出てくる記事の内容は、節構成(イントロ、データ、結論、議論)の紹介と、図表の重要性の強調、図の書き方の説明が一般的です。

Q. 「そんなこたぁ分かってんだよ!知りたいのはその先、科学的成果があって、節構成があって図表があって、それでどんな文章を書いたら論文がエディターチェックを通るの?アクセプトされるの?」

A. 「英語論文をたくさん読めば書けるようになるよ!」

答えになってねー。普遍の法則を見出して知識体系を構築する科学者からの回答が、こんな力業でええんか?

(日本人)研究者の英語科学論文執筆の現状は、全く良くない状況です。そこで今回の節内や段落内での最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことの実践が、多くの科学者研究者および大学院生に役立つことを願います。


4.科学論文執筆についての筆者の業績

さて、ここまでの内容の適切不適切とは別に、御高説を垂れてきた私は読者の信頼を得るに足るでしょうか?(本当は私への信頼なんて不要で、内容・技術が適切であり、読者がそれを理解できるならばそれで良い)

The area asymmetry in bipolar magnetic fields, T. T. Yamamoto, A&A 539, A13 (2012)

上記論文は、科学的結論も英文執筆もレフリーとのやり取りも完全に独力で遂行した私の論文です。(なんで一般家庭からフルテキストが読めるんだ?オープンにしたっけ?)

私が博士号を取得した20年近く前、日本語博士論文はなんとか書くことができましたが、博士論文の内容を独力で英語論文にする能力はありませんでした。「一人前の研究者」はもちろん論文執筆もできて当たり前と考えていましたので、当時からいつか独力で英語論文を執筆したいと考えていました。そこで執筆したのがこの論文です。

その当時、「結論を書いてから詳細」を節内部や段落内部でも心がけていたのはよく覚えています。なぜそれを心がけたのかは覚えていません。ただこの論文の執筆によって、英語論文執筆は私の中で「困難な作業」から「普通の作業」に格下げされました。この論文のあと、共同論文の筆頭著者として二本の論文を書きましたが、英語執筆で無茶苦茶詰まった覚えはありません。

この論文、レフリーが意味不明で最終的にエディター兼レフリーになった記憶があります。subumitとacceptの日付で1年半強。孤独でもよく頑張りました、私。なお脱字はありますし、最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことを徹底する余地もあります。


今回の記事も最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」スタイルで執筆しました。4を除いて。プレゼン手法によくある「最後に結論を再度伝える」の部分は、今回は意図的に省略しています。これは、プレゼン全体、論文全体でも最後の「まとめ」で結論を伝えることを私が当然視しているからです。途中の節の内部や段落内部で結論を再度伝えることは、強調のし過ぎと考えました。


科学論文の書き方、#2。文は、主語を短く、その後を長く。

科学論文の書き方、#3。英語と日本語と情報伝達方法の普遍性。

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