2024年7月6日土曜日

科学論文の書き方、#2。文は、主語を短く、その後を長く。

前回の記事では、節全体そして段落内において、最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことの実践を勧めました。本書では、そこからさらに一歩進めて、「文」の書き方についてアドバイスします。

この記事での執筆方法のアドバイスは、「主語を短く、その後を長く」、です。それに加えて、短文化と単文化の執筆方法もおすすめします。

本記事の第1節では、「主語を短く、その後を長く」について勧めます。第2節では、読みやすい文章、読者が疑問を持たないような文章を実現するための短文化と単文化について述べます。第3節では、人間にとっての普遍的な情報電方法について提案します。第4節では、前回と今回の記事についてまとめます。


1. 主語を短く、その後を長く

節や段落で最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」ことを実践できても、文単位で読みづらくては科学論文として不適切です。文単位の書き方で私のアドバイスは、「主語を短く、その後を長く」することです。

この「主語を短く、その後を長く」について、私は「日本語の作文技術(本多勝一)」で学びました。ただ私の意見として、この書籍は一読の価値はありますが、購入はお勧めしません。なぜなら、書籍内の例文があまりにも思想がかっているからです。私が気持ち悪いと感じる点は、伝える価値のある、思想と無関係な日本語作文技術の伝達に、作者自身の思想(モノの見方)を組み込む手法です。繰り返しますが、間違いなく一読の価値はあります。

次に、日本語の作文技術が科学論文の執筆に応用できるかといえば、間違いなくできます。英文でいえば、「It is found that ~.」はその典型です。文頭に、短い前置詞句を入れる程度はありだと思います。しかし基本は、「主語を短く、述語を長く」、です。


2. 単文化と短文化

あと「文」についのアドバイスは、単文化と短文化です。これらの手法も、前回の記事で主張したように、「文章に疑問を持たせない」ために必要な書き方です。長文であっても、何度も読めば理解できるでしょう。しかし、最初に読み終えた時点でその長文に疑問をもつことになります。単文化と短文化により、伝える情報は短く単純になります。これはつまり、理解しやすい情報を意味します。

単文化の意味は、具体的には「複数の文を読点や接続詞で安易につなぐことを避けよう」、です。例えば、WhileやWhenを使った、典型的な二文構成の構文は使用します。他の典型例には、「One is ~, and another is ~.」などがあります。しかしそれ以外では、接続詞(主にand)の頻繁な使用は避けましょう。可能な限り、単文化を実施しましょう。三つの文をつなげるなどありえません(過去の自分へ)。

科学論文執筆に慣れた研究者なら、接続詞を高頻度で使用しないでしょう。ただ自分や友人が執筆に慣れていなかったときは、接続詞を多用していた印象(朧げな記憶)があります。このへんは会話文andプレゼン初心者の「そして」の多用に引っ張られていた気がします。

短文化も重要な書き方です。事実を伝える科学論文において余計な修飾は不要です。どこかに統計的な情報があるかもしれませんが、ここでは提示できません。論文を読んでいると、「せいぜいこの程度の長さ」、「この程度の修飾」と思しき感覚はあると思います。

短文化は熱意のある初心者が慣れる必要のある行為です。執筆初心者の大学院生などは「自身の細かいニュアンスを伝えたい」と考えるかもしれませんが、残念ながらそれは科学論文には不要です。「『私は』自身の考えの細かい点を伝えたい」と思うかもしれませんが、「科学論文の読者の大半がそこまで知りたい訳ではありません(知りたい読者もいます)」。

この研究者が持つ細かい情報については、論文では不適切ですが、その主題に強い興味を持つ相手と議論を通じて交換すべき情報です。議論と科学論文では、情報をやり取りする層の興味レベルの幅が違います。科学論文については興味レベルの少し低い研究者も研究テーマ探しあるいは知識吸収の一環として読みます。あなた方がゼミで近い分野の論文を紹介するように、です。

話がそれましたが、単文化と短文化の応用として、「~, because ~.」の前後の文が長くなってしまったときなど、私は「~. This is because ~.」というように二つの文に分けます。この辺の塩梅(分けるべき文の長さや、その分け方)は、試行錯誤しながら覚えていくと思います。


3. 普遍的な情報伝達方法

今回、文の構造として「主語を短く、述語を長く」を紹介しました。これは、最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」に似た構造でもあります。おそらく、人間にとって普遍的に理解しやすい情報の伝達方法が存在します。それは、主題(主語(行為の主体)、あるいは結果、あるいは範囲)を最初に明確に提示することによって後続の情報の理解が容易となる情報の伝達方法です。

文、段落、節、そして論文全体の各構造において、最初に執筆者が伝えたい情報を与え、次にその情報について詳しく述べる。そして節単位および論文全体では、その最後に執筆者が伝えたい情報を再度与える。このフラクタルにも似た情報の階層構造が、おそらく我々人間の頭に入りやすい、言い換えると読者にとって理解が容易な情報の伝達方法なのでしょう。

一つ不明な点は、この手法・原則が全宇宙の知的生命体に適用可能な普遍性を持つか否か、です(笑いのポイント)。翻って、「人間にとって普遍的」の意味は、この情報伝達方法が言語に依存しない、という意味です。つまり、英語であれ日本語であれ、この原則に沿って執筆すれば、読者に内容を理解されやすい論文・報告書が出来上がります。


4. #1と#2のまとめ

前回と今回の記事内容をまとめます。

  1. 節単位と段落単位、最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」
  2. 文単位、「主語を短く、述語を長く」する。

これらの科学論文の執筆方法によって、科学論文の執筆教育の現状(科学論文を構成する節を提示する、図の意義を強調する、など)から一歩踏み込んだ、執筆方法の提示ができたと思います。同じ内容の記事、論文があっても驚きませんが、本記事の内容によって大学院生の科学論文執筆が容易になれば幸いです。

結局のところ、ある程度は論文を読む必要があります(次はこの状況をなんとかしたい)。読んでいない研究者はそもそも書くべき研究成果が無いでしょう。ベテラン研究者の論文などを読むときには、言い回しや文の長さをチェックするのも良いでしょう。グラフや図の説明文などの細かい書き方に困ったら、「すでに出版された論文」に倣うのは賢い手段だと思います。とは言っても、やはり全体のバランス、一文、一段落で伝えたい内容は執筆者が調整すべき課題です。先人の論文を安易に真似て、成功を得ることはないでしょう。


科学論文の書き方、#1。節内部、段落内部での「最初に結論(範囲)を伝え、次に詳細を伝える」の実践

科学論文の書き方、#3。英語と日本語と情報伝達方法の普遍性。

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