2018年11月30日金曜日

研究者に必要な、政治的な情報発信

ここでの提案は、国民と政府に向けて大学や公的機関の研究者は政治的な情報を発信しよう、です。


この20年ほど、研究者から国民への情報発信する努力が日本全体で行われてきました。

発信される情報の多くは純科学的なもので、科学の面白さ・重要性を伝えよう、という主旨です。

この20年間の情報発信・広報活動は国民を楽しませたと思いますが、大学における研究環境は現在酷い状況です。

この状況を変えるためには、多くの研究者が政府(財務省と文科省)を動かすために意見を述べるべきです。

そしてそのための時間を捻出すべきです。





財務省の望む日本人研究者像


大学の困難な状況の根源は財務省(アシスト文科省)で、その活動は現在も進行中です。

以前、「財政制度分科会(平成30年10月24日開催)の資料、科学技術(1)について」という記事を書き、資料の一部についてコメントしました。

私は研究者としての視点で読みましたが、財務省が作成したこの資料は酷いもので、財務省の「こうあって欲しい。こうしたらこういう素晴らしい結果になりそう。」という願望が詰まっています。

その願望は例えば、評価配分を強めて金になる研究の効率化を進め、年配の研究者をクビにして体力のある若手研究者を採用すれば、日本の大学研究はもっと繁栄する、というものです。

(採用された若手研究者も年をとったらクビにされるでしょう(´・ω・`))



その中でインパクトのあった財務省の恣意的解釈の一つが、研究の動機づけの割合です。

以下の図は、財務省の資料の該当部分です。

該当する財務省資料のP57より。

日本とアメリカの引用数トップ1%の論文とそれ以外の論文で、その動機を表した図です。

赤点線の◯がついているのは、その論文が「具体的な問題解決」を意図しておらず、かつ「基礎原理の追求」も意図していない論文の割合です。

ここに用いられている数字は、「科学における知識生産プロセス:日米の科学者に対する大規模調査からの主要な発見事実」という一橋大学主体の研究から得られたものです。

ここの数字を以って、財務省は「日本の研究者は研究の動機が弱く、生産性が低い」とみなしています。

これは、財務省の願望を反映した恣意的解釈と言えるでしょう。(人間は見たいものを見るんですねぇ)

この分割表は「パスツールの象限(Pasteur's Quadrant, [Wikipedia])」と呼ばれるもので、研究が基礎と応用のどこに位置するかを分類しています。

細かい説明はここではしませんが、赤点線の◯の領域はパスツールの象限では「名無しの象限」と呼ばれています。

ここに分類される研究は、「具体的な問題解決」を意図しておらず、かつ「基礎原理の追求」も意図していませんが、だからと言ってその研究結果が他の研究より劣っている訳ではありません。

私は「現象を発見した偉大な研究」はここに入るだろうと思っていますが、どうも色々な動機がここに押し込められているようで、単純ではないようです。


「動機が弱い」というのは財務省が日本の研究者にそうあって欲しい訳ですが、では日本人研究者の知的好奇心は、アメリカの研究者より劣っているでしょうか?

そして、研究の動機の崇高さは、研究結果の成功、発展性、人々の生活へのインパクトを保証するでしょうか?

もちろんそんな保証はどこにもありません。

実際のところ、アメリカの1%論文でも、この象限は9%です。

一般の論文に比べて1%論文のこの象限の値が1/10になるとか、アメリカの1%論文のこの象限の値が1%だというなら、「具体的な問題解決」と「基礎原理の追求」こそが引用数的に正しいと言えそうですが、そうではありません。

財務省は、この図を作成したアメリカの研究者たちに教えを請うべきでしょう。

日本の研究者たちに高圧的な態度で接して、自分たちの望む答えを引き出すのはやめて下さい。



「生産性が低い」については、上の図の前ページ(P56)で説明しています。

高等教育部門の研究費用は日本とドイツと同額、しかし10%論文はドイツの半分、だから論文生産コストがドイツの2倍、日本は生産性が低い、というロジックです。

高等教育部門の人数は分かりませんが、フルタイム換算で日本の研究者総数はドイツの倍です。(日本の人口は1.26億、ドイツの人口は0.82億)

よって、そもそも一人あたりの研究費用は、日本はドイツの半分です。

そうなると、一人あたりの10%論文は、日本はドイツの1/4でしょうか。

確かに低いですが、根本的に中堅から年配の研究者にお金 and/or 時間が無く、研究経験に乏しい若手研究者が多ければ、10%論文で負けるのも納得です。

そもそもお金を払っている大学院生をフルタイム換算の研究者に換算してる時点で、大本営発表ですね。アメリカにもドイツにも勝てる訳がありません。




財務省資料をそのまま飲み込む人達


私が見たツイッター例はこちらです。




また、この財務省の資料を読んだのでしょう、福井新聞はこんな記事を書いています。

論説 国立大学予算改革 効率性に偏っていないか(福井新聞、2018年11月23日)



原資料を読まない人達によって、「日本の研究者は研究の動機が弱く、生産性が低い」という財務省のイメージが、世の中に広がっています。

日本人研究者の皆さん、このまま放置しておいていいんですか?





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