1月6日のABEMA Primeにて、成田悠輔さんと池戸万作さんが経済成長と政府支出の関係について論を交わしました(未視聴)。それについて以下のツイートを見かけ、長いツイートを書いてしまったので内容をブログにもまとめます。
なんだろうなぁ…成田悠輔が好きってわけではないんだけど、「国民全員に100万円配ってハイパーインフレになったらどうする」発言については一般視聴者の最大公約数的な疑問をぶつけただけな気がするし、論理的に説得力のある反論をすればいいだけだよね。
— もやし大学生 (@moshiyamoyashi) January 10, 2023
万作はそれが出来てなかったよ。
Q. 国民全員に100万円配ってハイパーインフレになったらどうする?
A. ハイパーインフレは起きないよ。物価が最大で40%増加するよ。
国民に必要なのは、言葉を連ねた「論理的に説得力のある反論」ではなくて、数字による客観的かつ定量的な説明(概算)だと思います。
1. 概算
日本全国民1億人に100万円を配ると、物価が年間で最大40%最低20%増加します。「それだけ」です。ハイパーインフレは起きません。
— 山本哲也 (@tetsuyatyamamo2) January 11, 2023
100万(10^6)✕1億(10^8)=100兆(10^14)
予算は100兆円です。一般会計と特別会計の合計が500兆円、重複を除くと純計250兆円程度なので、100兆円/250兆円で40%です→ https://t.co/c7bNOFI10J
現在の一般会計と特別会計の純計250兆円に対して、全国民100万円計画の予算が約100兆円なので、貨幣循環によって企業と家計に流れる貨幣流量が40%増えるので、物価も最大で40%増加します。
2. 概算の根拠
この単純な計算の根拠は、数量方程式(フィッシャーの交換方程式、MV=PQ)です。
— 山本哲也 (@tetsuyatyamamo2) January 11, 2023
意味:市場で売れた財・サービスの総額(PQ)は、市場と家計を循環した貨幣量(MV)に等しい。
循環する貨幣Mは政府銀行由来なので、M=G+Iと考え、政府支出Gが40%増加すると考えれば、物価は最大で40%増加します→
「そんな単純な試算があるかい!経済は複雑やぞ!ハイパーインフレ起きたらどうすんねん!」という疑問には、貨幣循環を定量化した数量方程式を根拠として示します。
3. 最大40%最低20%
この40%は国内投資Iが増加しなければ20%まで減少します。さらに財・サービスの数量Qが増加すれば平均物価Pの増加は抑制されます。このような意味で「最大40%の物価上昇」です。
— 山本哲也 (@tetsuyatyamamo2) January 11, 2023
この給付が継続すれば40%程度の物価上昇は一度だけです。ハイパーインフレになる事はありません→
M=G+Iなので、政府支出Gの増加分100兆円とともに国内投資Iが同量増加すれば、平均物価Pは40%増加します。大雑把にG~Iと考えました。一方、Gが100兆円増加しても国内投資Iが増加しなければ、G+Iとしての増加は20%にとどまるので、物価上昇も20%と見積もりました。GDPの内訳を見直しましたが、正確に言おうとすると少し数字が変わりそうです。
4. 意見1
意見1、「貨幣の循環速度Vが変化するかもしれない」
— 山本哲也 (@tetsuyatyamamo2) January 11, 2023
第一に、貨幣循環速度は日本ではほぼ月に1回です。これは一般的な商習慣である月収制に由来します。
第二に、Y=MVにM=G+Iを代入すると、V=1/(1-β)、βは平均消費性向、です。1960年代以降の50年間、βは安定、従って循環速度も安定しています→
月収制の月一回の貨幣循環と、βから求めた循環速度Vには乖離があります。この乖離は「【貨幣循環】貨幣循環と循環速度の実態」の第2節で議論しています。
公開されているGDPの内訳から平均消費性向β=C/Yをプロットすると、過去50年間、βは0.6±0.05以内の範囲で変動しています。1960年代以降の日本経済はバブル期やバブル崩壊、消費税開始、収入格差の拡大などのイベントがありながらもおよそ0.6近傍の値でした。現在の私はこの安定性と0.6の起源を説明できません。とても不思議です。
5. 意見2
意見2、「経済(マクロ経済学)は複雑なのでこのように試算できない」
— 山本哲也 (@tetsuyatyamamo2) January 11, 2023
私の回答は「ミクロ経済学の需要供給均衡に基づいたマクロ経済学が間違っている」です。今回の試算の中心概念は貨幣循環で、これは循環フロー図、GDPの定義Y=C+G+I=C+T+S、数量方程式の統合です→https://t.co/qqLGKxgeHw
現在のマクロ経済学は貨幣循環を軽視して、経済学者たちの好みの「需要と供給の均衡」を重視してそれに合わせた仮説を構築しているため、論理的に一貫して単純ではない、複雑な説明になっています。
マクロ経済学の主題は、GDPを構成する過程の理解とその予測です。予測モデルの一例として、内閣府では「短期日本経済マクロ計量モデル」を開発・メンテナンスしています。このモデルについては、国家のために行政がデータ発信しているのですから、最新の研究成果ではないが実用として最も信頼できる経済予測モデルと考えられます。
その2018年版によると、使用されているIS-LM-BPモデルでは方程式数は152本(うち推定式47本!)です。そしてこのモデルは、過去のデータを元に年変化をもっともうまく説明できる係数を決定し、それを未来の成長予測にあてはめるというものです(回帰分析)。似たような解析をしたことがありますが、この類のモデルではその原理というか過程が明確に理解されている訳ではなく、例えば「ある現象について過程A(効果A)とBが起きている『はず』だが、どの程度の割合かは不明。そこでその現象の過去の観測値を説明できるようなパラメーターを求めて、そのパラメーターで未来を予測しよう」というものです。
この類の研究では、過去データを参考にしているため、最も予測の精度が良いと期待されるのはごく近い未来だけで、遠い未来については誤差幅が大きくなります。そしてこのようないわゆるデータのフィッティングにおいては、その期間を通じて過程AとBの係数が一定値として与えれます。なので、例えば「この年は過程Aが効果的だったが、次の年に効果的だったのは過程B」という時間変化は考慮できません。そしてそもそも過程AとBが実際に機能しているか否かを結論づける事はできません。
この点では、152本の方程式というのは多すぎるように思います。この類のフィッティングの特性として、考慮する変数(方程式)が多くなるほど、フィッティングの精度は良くなります。しかし、それらの変数が実際に効果的だという保証にはならないのです。
このような研究というか理解の段階では、成田悠輔さんと池戸万作さんの議論の主題となった「名目GDPの成長率と政府支出の成長率の正比例関係」を、彼ら含め経済学者たちが議論できないのも自然な事だと思います。
「名目GDPの成長率と政府支出の成長率の正比例関係」、つまり政府支出の成長率が3%なら名目GDPの成長率も3%というごく単純な関係が、30カ国の20年間の平均値によってえられたという事は、この関係の発生過程もごく単純で堅固なのだろうと推測されます。「経済は複雑」ではないのでしょう。そしてこの基本的な関係に、時間変化の振動成分やその時々のランダムな成分が乗って現実の観測値になる、というのが科学者にとって一般的かつ自然な推測だと考えられます。
先の「経済学者たちが定性的にさえ議論できない」点について、「お前は説明できるのか?」と聞かれれば、「貨幣循環の描像のもとで自然に説明できる」というのが私の答えです。上記の「短期日本経済マクロ計量モデル」では152本の方程式を使用していますが、貨幣循環に従って考えると、M=G+IとY=MV、そして二つの仮定によって「名目GDPの成長率と政府支出の成長率の正比例関係」を単純に説明できます(【貨幣循環】政府支出Gの成長率と名目GDPの成長率の関係(Y、M、Vの各変化率の関係))。
私の貨幣循環に従った仮説が正しいかどうかは、この「名目GDPの成長率と政府支出の成長率の正比例関係」以外の経済現象を説明できるかあるいは予測できるかによって決まります。これは仮説の検証です。今回の全国民100万円に対してのインフレ率の予測も、仮説の検証の一例です。様々な観測値を検証して、定量的に説明できる事を増やしながら仮説を拡張・改善していくのが、科学における「仮説と検証」のプロセスです。
6. ミクロ経済学の需要と供給の均衡とマクロ経済学の乖離
この私の仮説の正否はともかく、なぜミクロ経済学の需要と供給の均衡がマクロ経済学の中心なのでしょうか?「需要と供給」ではマクロ経済学に欠かせないGDPの定義や循環フロー図を自然に説明できません
— 山本哲也 (@tetsuyatyamamo2) January 11, 2023
現在のマクロ経済学は、現象と観測方法に対して説明の開始地点が乖離しています。(了)
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