2022年5月11日水曜日

【貨幣循環】貨幣循環と循環速度の実態

 「【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」において、日本の2017年の貨幣の循環速度 V=Y/(G+I)~2.2、という値を得た。この記事では、この値の実態について議論したい。これはつまりV~2.2の単位についての議論である。読者に主張したい事は、次の2点である。

  1. 循環フロー図で表される貨幣循環の実態は、数字の移動である。
  2. 貨幣の循環速度の実態は、商習慣の月収制に強くコントロールされている。


1. 実物の貨幣ではなく数字が循環する

貨幣循環あるいは実体経済の現実として、財・サービスと労働力の循環に対応するのは、貨幣の実物というよりも、貨幣に代表される数字の循環である。

この事は、現代のクレジットカード、電子マネー、銀行口座間の送金の実例から明らかである。また会計時の釣り銭の存在も、この数字の循環を示している。釣り銭の存在は、消費行動を行ったにも関わらず、企業から家計に移動する貨幣の存在を意味する。

逆に考えてみよう。「概念上の貨幣循環が実物の貨幣の循環と一致する」とは、どのような状況だろうか?考えられる状況は「単位額の貨幣のみ存在する経済」である。日本に例えれば、一円硬貨のみが存在する状況である。もちろん手形も電子的決済手段も存在しない。この状況ではどんな価格も一円硬貨によって支払う事ができるので、釣り銭が存在しない。従って、家計から企業に必ず貨幣が流れる。そして企業から企業への支払い、自治体と政府への納税、政府支出などもこの一円硬貨の大量移送によって実行される。もし銀行業務が存在するなら、その融資は口座に預けられた一円硬貨によってなされる(銀行には貨幣鋳造権が無いため)。

この状態ならば、数字の移動は貨幣の移動と一致する。しかし容易に想像できるように、一円硬貨のみの持ち運びは個人レベルでも企業レベルでも非常に不便である。そして強盗の存在を考えれば非常に危険である。この不便さは原始的な経済の段階ですでに認識されていただろう。

この不便さに対する対策は、複数種類の貨幣によって移送を容易にする事、そしてさらには手形あるいは帳簿上の取引によって貨幣移送の手間を省く事である。これらの対策によって、経済活動は確実に活発になる。しかし同時に、貨幣循環と実物貨幣の循環は一致しなくなる。現代経済では、数字が循環している。実物貨幣は循環の一部分を担っている。


2. 月収制

重要な認識は、月収制という商習慣によって、企業が貨幣の循環速度をコントロールしている事である(企業は無意識かもしれない)。数量方程式で得られる貨幣の循環速度は、例えばGDPを求めるための一年という期間に縛られた、見かけの循環速度である。日本を含め、世界中の全ての国が月収制を全面採用している訳ではないが、ここでは月収制のみ言及する。

「V~2.2」という数字に単位をつけるとしたら、おそらく読者のみなさんは数量方程式あるいはGDPの定義より「回転/年」とするだろう。はたして、この単位は貨幣循環についての現在の実態に即しているだろうか?言い換えると、貨幣は1年をかけて企業と家計を2回程度循環するのだろうか?

筆者の主張はこうである。「現在の貨幣循環は、商習慣である月収制によってほぼひと月ごとに家計に戻ってくる。従って貨幣の実質的な循環速度は1回転/月である。そして数量方程式から得られたV~2.2の解釈は、『政府と金融市場から財・サービス市場に注入された貨幣の大半は2、3ヶ月で政府と金融市場に戻る』、である。現代の月収制を基盤とする社会では、そのような貨幣循環が通年で行われている。」

もちろん反対意見もあるだろう。貨幣の循環速度「2回転/年」が真実だと仮定しよう。では読者の皆さんは、半年おきに買い物をするだろうか?あるいは企業は半年ごとに給料を払うだろうか?家計と企業が半年ごとに貨幣を移動させるなら、「2回転/年」は現実に即していると判断して良いだろう。だがもちろんそんな事は無い。我々は実質的に毎日消費活動を行い、企業と政府自治体は月に一度給与を支払う。

繰り返すが、筆者の主張として現代の貨幣の循環速度はおよそ「1回転/月」である。これは月収制に基づく。そして注入された貨幣が貨幣循環を何回転あるいは何ヶ月継続するのかは家計の平均消費性向によって決まる(V=Y/(G+I)=1/(1-β))。

さて、企業による循環速度「1回転/月」と数量方程式による循環速度「2回転/年」の間の溝をどう埋めたらよいだろうか。例えば、V=NV0と置こう。V0は添字の0だと思ってほしい。このV0が企業による循環速度であり、NがVとV0を結ぶ変数である。この時、Nの単位は「月/年」となり、1年間に循環が継続する月数を示している。ここではV0=「1回転/月」なので、Nが示す月数は貨幣の循環数と一致する。


本記事の内容は、現実の商習慣を含めた貨幣循環を説明している。筆者の説に反対する人がいても不思議ではないが、その人は本説よりも適切な、包括的な仮説を提示すべきである。


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