要約
- YとM=G+Iの成長率には正比例関係がある。この正比例関係は、YとGの正比例関係よりも分散が少ない。
- 貨幣循環の描像(M=G+IがYの入力)によるYの成長率の予測は簡易である。
- 研究方針:YとM=G+Iの正比例関係の分散幅を定量的に説明したい。貨幣循環における企業と家計の空間的な拡張を考慮したい。
- 現在のマクロ経済学は、
内容
- 「YとGの成長率」および「YとG+Iの成長率」の正比例関係。
- 貨幣循環に基づいた計算の概要。
- マクロ経済学の現状。
1. GとYおよび、G+IとYの成長率の正比例関係
以下に二つの図を示す。上の図は、M=GとYの成長率(g_M, g_Y)の散布図である。下の図はM=G+IとYの成長率の散布図である。データはOECDから取得した。期間は過去20年間、国は?カ国、データ点数は?点である。
上の図がM=Gの場合の成長率の散布図で、相関係数は0.866である。下の図はM=G+Iの場合の散布図で、相関係数は0.953である。どちらの散布図の相関係数も高く、g_M=g_Yの傾き1(赤い破線)の正比例関係を見せている。ただし、下の散布図のほうが相関係数は高く、またg_M=g_Yからの分散が少ない。
Yの定義は「Y=C+G+I」のため、GやG+Iの成長率とYの成長率に相関があることは、いたって自然なことに思える。さらに、M=Gの成長率よりもM=G+Iの成長率が分散が少なく、かつYの成長率と相関係数が高い理由は、M=G+Iが国内経済(国内の貨幣循環)のインプットであることを考えれば、これも自然なことである。以下の図は、貨幣循環図の中で、国民総生産が「Y=C+G+I=C+T+S」で測定できることを示している(詳細は、「【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」にて)。より正確には、国民総生産「Y=C+G+I=C+T+S」を貨幣循環図の中で説明しようとしたらこうなった、という話である。
この図では、矢印が貨幣の流れを示しており、黒い実線が貨幣の流れを測定する断面を示している。この断面が、国内経済の活動量を「Y=C+G+I=C+T+S」で測定できる根拠である。この図をもとに、GDPの成長率を予測するための計算について考えてみたい。2. GDPの成長率予測の全体像
上の図で示される貨幣循環のもとでの、成長率予測の計算は至極簡単である。
- GDPの測定期間である1年間を12分割し、G+Iの注入を考える。
- 注入されたG+Iは、その月のCと共に、翌月のCに反映される。
- 数式は、C' = β(C+G+I)。C'は翌月のC。
以下、注意点である。
- 現代の商習慣(月給制)から、1年を12分割して、分割したG+Iを注入する。
- 商習慣は国によって変化する。
- 月ごとのG+Iは、異なる値に設定できる。
- 時間変化を計算する際には、Cの初期値が必要。
Cの初期値は、一つ前の測定期間の最後の月のG+I+Cから計算するべきである。またそのための平均消費性向βは、日本の場合はほぼ変動はない。もちろん変動も考えられる。
ある月に注入したG+Iの値が後続の月に影響を残すことは貨幣循環の本質であり、乗数効果そのものである。ただこれが厄介な効果でもある。極端な例として、ある測定期間の最後の月にG+Iの成長率分の全ての金額を注入すれば、それはもちろん次の測定期間の最初の月のCに反映される。この場合、その測定期間ではG+Iの成長率に対してYの成長率は0である。
数値計算の目的は次の二点である。
- G+Iの増加分を注入する月を変動させて、上記の図の、G+IとYの成長率(g_M, g_Y)の分散幅を説明したい。
- 企業と家計について「空間方向の拡張」を行いたい。
- 将来的には、日本の平均消費性向βの変動が小さい理由を知りたい。
この企業と家計についての「空間方向の拡張」は、詳細に言えば、国内の全企業と全家計の活動の詳細を考慮することである。前の記事(【経済学】【GDP予測_01】数値計算の現状)で、スパコンを用いてサプライチェーンの詳細を調べた研究を紹介した。このような詳細な計算は個人レベルでは無理なので、企業と家計の活動について簡易的なプロファイルを導入したい。
3. マクロ経済学の現状。
参考文献を一つ挙げておくが、マクロ経済学の全ての教科書も参考文献である。
乗数効果の低下の要因について(Vol.144、フィナンシャル・レビュー、財務総合政策研究所、財務省)
第2節での貨幣循環による描像を考えると、GDPの成長について現代経済学およびメディアが説明している事柄のいくつかは、矛盾あるいは不要に思われる。
- 市場での総供給と総需要が重要。
- 企業の生産性向上が重要。
これらがGDPの成長に矛盾あるいは不要と考える理由は、結局これらが貨幣の流れに影響を与えないからである。言葉を変えると、市場や企業には、貨幣を生み出し、吸収する機能がないからである。
現代マクロ経済学における「総需要と総供給」は、私にはその必要性が全く理解できない。いわゆる「ミクロ的基礎づけ」という思想が何を説明しているのか、私には理解できない。例えば私は宇宙論における紐理論(超弦理論、)の内容を理解できないが、紐理論を含めて、「科学における仮説はより多くの現象を定量的に理解するために導入される」ことは理解できる。私が理解できないのは、「ミクロ的基礎づけ」がマクロ経済のどの現象(どの段階)を定量的に説明して、経済現象の理解に効果的な理由である。
私の理解する限り、「ミクロ的基礎づけ」とは、「ミクロ経済学の『需要と供給の均衡』の概念でマクロ経済を説明したい」という経済学者政治家官僚の願望であって、定量的に検証されたものではない。「ミクロ的基礎づけ」は、経済学者政治家官僚(+マスメディア)が自分たちの立場を補強するために使用している主張であって、それは「仮説と検証」サイクルによって洗練された仮説ではない。
しかしながら、「ミクロ的基礎づけ」は、ケインズがマクロ経済の理解に「Y=C+G+I=C+T+S」を導入した後も経済学者たちによって一貫してマクロ経済学に導入され、排除はされなかった。その結果、マクロ経済学のGDP予測についての理論は、未発展未検証の内容だらけで機能していない。言葉を変えると、現在のマクロ経済学は、経済をコントロールする立場にあると思っている人々(経済学者政治家官僚および銀行)が自分たちの機能を対外的に説明するために使用している学問であって、マクロ経済現象を定量的に説明するための学問ではない。
以下は、「総需要と総供給」に加えての、マクロ経済学のおかしな主張(私視点)である。
- 100本単位の数式を考慮してるから、マクロ経済学のGDP予測は正しい、効果的である。
- 家計や企業の細かい分析をしてはいないが、GDP予測は十分な精度である。
- 「市場での総供給と総需要」や「企業の生産性」が機能しても、乗数効果は作用する。
- 数式を考慮した結果、「GとIの変化率」につく係数が財政効果、金融効果を意味する。「GとIの変化率」そのものが財政効果、金融効果ではない。
- 国内経済を循環する貨幣量はM=M2orM3である。これには、明らかに国内経済に寄与しない貨幣も含まれる。
- Y=MVから、例えば日本での貨幣循環速度は0.1の単位である。この意味は説明できない。
- 国内総生産には金融市場の需要と供給の均衡も効果がある。財・サービス市場のみが効果があるのではない。
科学的な数値計算の一端を横目で見ていた人間としては、このマクロ経済学が成果を生み出せていないことは当たり前で、この状態が50年以上継続していることが理解できない。「マクロ経済学を正しく発展させてはいけない理由」があったとしか思えない。それはきっと、経済学者政治家官僚の権威の問題なのだろう。
前の記事でサプライチェーンの詳細研究を素晴らしいと書いたが、あのような計算は30年以上前に行われるべきだったと私は思う。近年「経済物理学」のキーワードで、AI利用を含めた物理学寄りの立場での研究が進められているようであるが、現状の経済学の観点では物理学レベルの研究の成功は不可能だろう。
経済学における体系的な研究実行のレベルは、科学技術におけるそれに比べて大きく劣っている。スパコンを必要としている課題とその内容は、科学技術と経済学の差異の一端である。このような不出来な学問が国家の最優先事項である経済のコントロールを担当し、それによって(日本の)科学技術の発展が阻害されている状況を、私は変えたい。
私のこの主張に対して、経済学者政治家官僚+マスメディアは、これまで同様に権威を振りかざし、あるいは弁論で有耶無耶にして自分たちの立場を守ろうとするだろう。しかし、現在の科学技術が生み出しているモノ(大学や公的機関での基礎研究の内容や、自動車やスマホ、さらにはAIなど、科学技術を利用する企業が生み出す製品(その設計過程と生産過程)は)と、現在の経済学の生み出すモノの精度とレベルとあまりに違いすぎる。
科学技術で生み出された製品は、我々の身の回りにあり、生活を豊かにしてくれている。一方、「日本経済の失われた30年」とは、経済学が経済をコントロールできていない証左である。日本政府が消費税という負の乗数効果を導入して、それでいて経済成長を目指したことと、経済学が消費税の効果を定量的に説明しなかったことは、経済学が経済を理解できていないという証左である。
