2022年11月17日木曜日

【貨幣循環】財・サービスの数量の概算

現在我々が1年間に消費している財・サービスの数量は、平均物価を100円から1000円と仮定して、およそ4000から40000程度である。1年を365日、さらに400日と大雑把にすれば、1日に消費あるいは購入している財・サービスの数量は10から100程度となる。この数字の導出を説明する。


内容。

  1. 数量計算の意義
  2. 拡張された数量方程式
  3. 財・サービスの数量の試算


1. 数量計算の意義

経済学や経済報道において、しばしば「実質GDP」という単語を聞く。名目GDPから物価変動を除外した値である。現時点では経済学者を含めた人類全体が、いかにも実質GDPが重要だと認識しているようだが、実際この実質GDPは経済を理解するためには不十分な指標である。なぜなら実質GDPとは、定数である基準年の平均物価と、人口と、一人あたりが消費する財・サービスの数量の積だからである(これは次の節で説明する)。

定数である「基準年の平均物価」は議論しなくても良い。この段階で実質GDPの本質は、販売された財・サービスの数量である。そして大事な事は、「販売された財・サービスの数量 = 人口と一人あたりが消費する財・サービスの数量の積」という認識である。実質GDPの増減とは、人口の増減と、一人あたりが消費する財・サービスの数量の積の増減である。販売された財・サービスの数量は、人口と一人あたりが消費する財・サービスの数量に分離して理解しなければならない。

例えば旅行の際に我々は、旅行先までの距離と移動手段、そして移動距離を考慮する。これはごく自然な事である。我々は、旅行に行く際に距離だけを気にして、移動手段と移動距離を行き当たりで決めたりはしない。

これと同じで、実質GDPあるいは販売された財・サービスの数量だけでは、経済学という学術研究としての認識は不十分である。販売された財・サービスの数量の増減に対して、人口の増減と一人あたりの財・サービスの数量の増減を分離して議論しなければいけない。

通常の国家経営なら人口は増える一方であり、そして科学技術の進展に伴い、財・サービスの数量も通常は増える一方なので、実質GDPの増加は当然である。そしてその増加幅だけが議論される。しかし現在の日本では人口が減少している。そして政府支出の抑制により科学技術と財・サービスの進展も十分とは言えない。「実質GDP」というフワッとした量の増減だけを議論していては、十分な議論とは言えない。人口の増減と財・サービスの数量の増減を分離しなければならない。

以下では、日本の現在と過去の財・サービスの数量を概算する。


2. 拡張された数量方程式

「販売された財・サービスの数量 = 人口と一人あたりが消費する財・サービスの数量の積」という認識は、「拡張された数量方程式」に基づいている。

Y=MV=PQ=PSN'

ここでは、Yが名目GDP、Pが平均物価(財・サービスの平均価格)、Qが販売された財・サービスの数量、Sが国民一人あたりのサービスの数量、N'が人口である。この拡張については「【貨幣循環】名目GDPの定義の統合と拡張された数量方程式」で述べている。数式的な導出ではなく、貨幣循環における貨幣流量保存の観点から数量方程式に等号を追加した。貨幣循環における貨幣流量保存の一面は、GDPの異なる定義の等価性(三面等価)である。

この式の意味はつまり、名目GDP(Y)が財・サービス市場で販売された総額(PQ)に等しく、そして全国民が消費する財・サービスの総額にも等しい、という事である。このY=PQ=PSN'を使って、財・サービスの数量を試算する。


3. 財・サービスの数量の試算

最初に挙げる数字は、名目GDP550兆円/年、人口1.25億人である。これによってPS=4.4*10^6(円/人/年)という値が得られる。10^6 = 1,000,000。そして平均物価Pを100円から1000円と仮定すると、一人あたりの財・サービスの数量として4000から40000(/人/年)が得られる。

筆者の知識不足のせいであろうが、この平均物価Pがよく分からない。実際のところ、「全ての財・サービスの平均物価」の測定が困難な事はよく理解できる。そこで、例えば統計的に十分な品目数とサンプル数を確保して実用に耐える近似値を得る手法が一般的である。

我々が日常生活で使う消耗品については消費者物価指数が存在するが、これは相対値として公表されている(消費者物価指数のしくみと見方 -2020年基準消費者物価指数-、総務省作成PDF)。ここに、「〇〇年の平均物価??円を基準とする」と但書でもあればよいのだが、残念ながら無い。そのため、この記事では平均物価Pを100円から1000円と仮定する。

【貨幣循環】GDPと国家予算は膨張する」では、明治期から現代にかけての、名目GDPと人口と物価の変化から、財・サービスの数量の変化率を概算した。その概算によると財・サービスの数量はおよそ100倍増加している。

先のS=4000~40000(/人/年)は1年間の値であるので、365で割ると、およそS=10~100(/人/日、一人一日あたり)という値になる。従って、明治初めの財・サービスの数量はS=0.1~1(/人/日)という値になる。この値は平均物価に対しての値である。平均物価1000円に対して100円の商品を購入すれば、それはS=0.1と考える。

P=1000円でS=0.1(/人/日)を考えると、例えば購入できる財・サービスは一日分の食材費用+αであろうか。現代なら一日100円の生活は番組のネタになるような極端な状況だが、明治時代初期なら平均物価Pに対してのS=0.1(/人/日)は極端な状況ではなかったろう。なぜなら現代に存在する製造流通のコストが無いからである。その代わり、調味料などは乏しく、地元で取れた旬の食材がメインとなる。それが全国的な日常風景だったのである。

一方で現代ではS=10~100である。我々が消費しているのは、意識して購入する一日分の食材だけでなく、通信、精密機械で作製された商品、豊富な食材商品のための流通、教育と医療、外交と防衛、道路と水道、そしてゲームや本といった娯楽などの多くの財・サービスである。我々はそれらを意識して、そして意識せずに消費している。

本当に現代と明治初期で財・サービスの数量に100倍もの差があるのかと思う人もいるだろう。前出の「消費者物価指数のしくみと見方」には、平均物価を求めるための日用品のリストが挙げられている。そこに挙げられた品目を見れば、財・サービスの数量が明治初期と比べて100倍に増加したというのも、納得である。挙げられているほとんどの品目は明治初期には存在していないか、全国的には流通していない。そして上に挙げた公共サービス+その他の財・サービスの増加も考えれば、100倍の差は決して誇張ではない。少なく見積もっても、その差は10倍ではおさまらないだろう。


本当は経年変化のグラフを描きたかったが、本記事の結論はここまでである。実質GDPと販売された財・サービスの数量は、それらだけではマクロ経済を理解するためには不十分な指標である。販売された財・サービスの数量Qを、人口N'と一人あたりが消費する財・サービスの数量Sに分離しなければならない。明治初期の一人一日あたりに消費する財・サービスの数量はS=0.1~1、現在ではS=10~100である。


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