2022年6月27日月曜日

【貨幣循環】拡張された数量方程式、フィリップス曲線、マクロ経済学とミクロ経済学の接続

この記事の主張は二点。一点はフィリップス曲線について、もう一点はマクロ経済学(貨幣循環)とミクロ経済学の接続について、である。

拡張された数量方程式からは、収入のインフレ率(年変化率)と就業者数の年変化率がペアの変数として得られる。理論的根拠のない、物価のインフレ率と失業率の関係を議論するよりも、数量方程式によって導かれた収入の年変化率と就業者数の年変化率の配分を研究すべきである。

この収入の年変化率と就業者数の年変化率の配分のメカニズムについては、少なくとも今の筆者の理解では、貨幣循環で描像できない。これはミクロ経済学の領域である。拡張された数量方程式(MV = PQ = NO = PSN')は、マクロ経済学とミクロ経済学の接続を示している。


 1. 拡張された数量方程式とフィリップス曲線

次の式は、「経済成長における成長率「GDP > 平均所得 > 物価」の理論的背景」で示した、拡張された数量方程式の変化率の表現である。

  • dM/M + dV/V = dP/P + dR/R + dN/N = dN/N + dO/O
ここで、dP/P + dQ/Q = dP/P + dR/R + dN/N であり、Mは循環する貨幣量、Vが貨幣の循環速度、Pが平均物価、Qは販売された財・サービスの総量、Rは労働者(収入を得る者)一人あたりの生産量、Nは収入を得る人の総人数、Oは平均収入額、である。

この変化率の後方の等号より、dP/P + dR/R = dO/Oが得られる。従って、平均収入額の変化率を平均物価の変化率にただ置き換えるならば、そこでは一人あたりの生産量の変化率が無視されている。

次に、dO/O と dN/N はペアである。つまり平均収入額の変化率に対しては、収入を得る人々の総数の変化率を調べるべきである。その年の失業率を、つまり職と収入を得られなかった人々のその年の割合を、平均収入額の変化率と比較する論理的根拠はここまでに存在しない。

結論として、フィリップス曲線を構成する物価のインフレ率とその年の失業率の関係を調べるべきではない。調べるべき変数は、平均収入額の変化率と収入を得る人々の総数の変化率である。これらの変数はGDPの変化に直結している。物価のインフレ率と失業率という変数のペアは、平均収入額の変化率と収入を得る人々の総数の変化率のペアを理解しにくい方向に変換したものである。


2. 拡張された数量方程式とマクロ経済学とミクロ経済学の接続

【貨幣循環】M=G+Iとマクロ経済学の分析」にも書いたが、現在のマクロ経済学とミクロ経済学の境界はどこにあるのだろうか?筆者の見立てとして、現在のマクロ経済学はミクロ経済学の拡張に過ぎない。なぜならば、マクロ経済学の主題がGDPであるとはいえ、その量とその変化を「需要と供給の均衡」によって記述しようと試みているからである。

物理学には、力学、電磁気学、振動と波動、光学など多くの少分野が存在する。それらを区別しているのは、現象と現象を記述する形式(数式)の違いである。現象はエネルギーや力の次元では結びついている事もあるが、個々の現象を記述する形式は全く異なっている。別個とみなされていた二つの現象あるいはそれらの現象の一部が、同じ数学形式で記述できるのなら、その二つの現象は同様の性質を持っていると考えられる。それは例えば、電磁波(可視光線)が波紋や音波と同様の波動的性質を持っている事である。

従って、「需要と供給の均衡」によって記述されているマクロ経済学は、ミクロ経済学の拡張に過ぎない。

筆者の知る範囲では、マクロ経済学においてGDPに直結する数式は、Y = C+G+I = C+S+T と、Y=MVの二つである。「【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット」では、この二式と循環フロー図によって示される貨幣循環を考慮して、M=G+I、V=1/(1-β)、という数式を得た。βは平均消費性向である。これらの数式に含まれる、貨幣循環に関わる変数の研究がマクロ経済学だと筆者は考える。そして、拡張された数量方程式、MV = PQ = NO = PSN' が、ミクロ経済学とマクロ経済学の接続式である。変数P、Q、N、Oは流れてくる貨幣流量に応じて、ミクロ経済の範疇で変動する。

以前に「【貨幣循環】流体的貨幣循環と直接給付とインフレターゲット」という記事を書いたが、マクロ経済学とは、政府、金融市場、企業、家計、財・サービス市場、生産要素市場で構成される水路を流れる水流そのものについての研究である。ミクロ経済学は、その大きな流れが企業と家計によって細分化される過程の研究である。


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