2022年1月21日金曜日

経済成長における成長率「GDP > 平均所得 > 物価」の理論的背景


本記事の動機は、小川製作所さん (@OgawaSeisakusho) による経済成長の成長率のグラフです。それらのグラフでは、

  • GDP > 平均所得 > 物価

という変化率が一般的のようです。この関係を拡張された数量方程式を使って説明します。家計消費については第3節で説明します。労働生産性は単位時間の変数なので、ここでは議論しません。内容は次の通りです。


  1. 拡張された数量方程式による説明
  2. 変化率の関係式の導出
  3. GDPと家計消費の関係


1. 拡張された数量方程式

拡張された数量方程式は次のとおりです。

  • MV = PRN = NO

この式は、「ある期間に財・サービス市場を通過した貨幣の総額が、企業によって販売された財・サービスの総額に等しく、さらに全家計の収入の総額に等しい」事を意味します。

以下の式は、拡張された数量方程式の諸変数について、微小変化の変化率の和の関係を示しています。この導出は次の第2節で示します。

  • dM/M + dV/V = dP/P + dR/R + dN/N = dN/N + dO/O

左から、貨幣量Mと貨幣の流通速度(回転速度)Vの変化率の和、平均物価Pと一人あたりの財・サービスの生産量Rと家計総数(~労働者総数)Nの変化率の和、そして家計総数Nと平均収入Oの変化率の和を示しています。

これらの変化率を使って「GDP > 平均所得 >物価」の成長率の関係を示すと、以下のようになります。

  • dM/M + dV/V > dO/O > dP/P 


まず数量方程式の値は、測定期間を1年間とすれば名目GDPそのものです。なので、左端の「dM/M + dV/V」は名目GDPの変化率を示しています。

中央の「dO/O」について、「dM/M + dV/V = dN/N + dO/O」ですから、「dM/M + dV/V > dO/O」です。暗に「dN/N>0」を仮定していますが、国家を繁栄させるための経済政策なら、人口を増やし労働人口を増やす事は当然だからです。注意点として、名目GDPから求められる全家計の平均収入の変化率は、説明文を読む限り、OECDの平均賃金の変化率にほぼ一致するでしょう。

そして「dO/O > dP/P」の関係は、「dO/O = dP/P + dR/R」の関係からです。dR/Rが示す一人あたりの生産量は、科学技術の発展により時間について単調増加します。科学技術の正常な発展が失われるような異常な状況をここで議論する必要は無いでしょう。よって、「dO/O > dP/P」です。


以上、拡張された数量方程式から導かれる変化率の関係から、人口が増加し、そして科学技術が発展して生産性が向上している限り、「GDP > 平均所得 >物価」の成長率の関係、「dM/M + dV/V > dO/O > dP/P」という関係は常に成立します。



2. 変化率の関係式の導出

研究に馴染みのない一般の方々は、数量方程式
  • MV = PQ = NO

から、変化率の関係式がどうして出てくるか、疑問に思う人もいるでしょう。

  • dM/M + dV/V = dP/P + dR/R + dN/N = dN/N + dO/O
この導出について説明します。ここではMVとPRNを使って説明します。NOを加えても同様の導出をするだけです。

  • MV=PRN

数量方程式のそれぞれの変数に微小変化を与えます。例えば、Mに対してdMとします。微小変化を与えた式は次の通りです。

  • (M+dM)(V+dV) = (P+dP)(R+dR)(N+dN)

ここでは微小変化の値の大きさとして1/100程度あるいはそれ以下の値(M>>dM、dM/M<0.01)を考えます。もし仮にM~dMの変化を考える場合、上記の変化率の関係式と以下の導出は適応できません。上の式を展開して、

  • MV+VdM+MdV+dMdV = P(RN+NdR+RdN+dRdN)+dP(...)

ここで一工夫、近似を用います。この近似では、二次以下の微小項(例、dMdV)を無視します。これは、二桁以下の微小変化を考えているからです。この時、例えば MV >> MdV >> dMdV となるので、dMdVを無視します。この近似を用いると、少し簡単になった次の式が得られます。

  • MV+VdM+MdV = PRN+PNdR+PRdN+RNdP

ここで、MV=PRNなので、これらの項を両辺から引いて次の式が得られます。

  • VdM+MdV = PNdR+PRdN+RNdP

そしてこの両辺をMV=PRNで割ると、変化率の関係式が得られます。

  • dM/M + dV/V = dP/P + dR/R + dN/N


繰り返しますが、この関係式は近似式なので適用できる範囲が存在します。そのような制限がある反面、見ての通りに、変数間の関係性が明確な式でもあります。先に書きましたが、桁数として1%未満の変化ならこの式を使って問題ありません。10%以上の変化率については無視した二次以下の微小項の値が大きくなるため、この式を使っての解釈はおすすめしません。


3. 名目GDPと家計消費

名目GDPと家計消費の間の関係は、一般に「家計消費=名目GDP*平均消費性向」として知られています。あるいは平均消費性向の定義式です。なのでここまでの導出から分かるようにこれらの変数の変化率の関係は、

  • 家計消費の成長率 = 名目GDPの成長率 + 平均消費性向の成長率

となります。平均消費性向が変化しなければ、名目GDPと家計消費の成長率は一致します。しかし、平均消費性向に変化があれば、それが名目GDPと家計消費の成長率の差になります。

冒頭のツイートで紹介されている小川製作所のブログ記事では、欧米各国の名目GDPと家計消費や他の変数の成長率が示されています。例えばフランスでは名目GDPと家計消費の成長率がほぼ一致しており、アメリカとイタリアでは家計消費の成長率が名目GDPの成長率を少し上回り、イギリスとドイツでは名目GDPの成長率が家計消費の成長率を少し上回っています。

ここから、アメリカとイタリアでは平均消費性向の平均的な値が上昇し、逆にイギリスとドイツでは平均消費性向の平均的な値が減少している事が分かります。これらは微小な差ですが、継続的な経済政策の結果です。その選択の成否はここでは議論できません。

なお、欧米の選択の成否は議論できませんが、欧米の成長率のグラフに続く日本のグラフの有り様はとても悲しいものです。これは単に経済政策上の失策で、その原因は「政府債務を増やして貨幣を多く発行すると、国家の借金だから、国家財政が破綻してしまう、大変なことになってしまう」という、諸外国では見られない、政治家たちと財務省のただの思いこみのせいです。


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