2021年12月22日水曜日

【電子書籍】マクロフロー経済学 3 貨幣循環の定量解析

 マクロフロー経済学 3 貨幣循環の定量解析

Macro-Flow Economics 3 Quantitative analysis of Money circulation


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 本書では、貨幣循環を定量的に解析した。定量的な解析を可能にしたアイデアは二つ。一つは、貨幣循環にコイル構造を適用し、家計本位の視点から貨幣流通の視点に移行した事である(第2章)。もう一つは、GDPの定義を循環フロー図中の複数の断面によって統合し、数量方程式を拡張した事である(第3章)。第4章では、拡張した数量方程式のもとで変数の分布を確認し、特に関与貨幣量Mと平均回転数Vの年変化率が見せる傾向について、コイル構造を使って解釈した。

 主要な結論は二点。第一に、拡張された数量方程式から導かれる結論として、政府は科学技術、経済規模、人口の発展に応じて貨幣量を増加させなければならない。もし貨幣量を増加させなければ、それは人口の減少あるいは財・サービスの数量の減少という結果が生じる。貨幣量の増加が必要な理由は、数量方程式で貨幣量のペアである平均回転数(平均回転速度)が、安定しているからである(日本では2.25程度)。

 上記の式が拡張された数量方程式である、Mは貨幣量、Vは平均回転数(平均回転速度)、Pは平均物価、Qは販売された財・サービスの総量、Nは家計総数、Oは平均収入、N'は消費者総数、Sは消費者一人あたりの財・サービスの数量。名目GDPは市場を回転した貨幣の総量MVであり、それは販売された財・サービスの総額PQと同等であり、それは全家計の収入の総額NOであり、消費者一人あたりが意識的あるいは無意識に受けているサービスの総額である。意識的に受けた財・サービスとは消費で購入したものを意味し、無意識に受けた財・サービスとは治安や教育、国防などを意味する。

 第二の結論として、定量的な解析の結果、1995年以前と以降では貨幣の流通の様相が異なっている(ここでの1995年はデータの区切りの年であり、厳密な転換点ではない)。まず1995年以前と以後に関わらず、政府支出と投資の増量は0巻と一巻きのコイル構造が示す貨幣循環を対象としている。ここで0巻きのコイル構造とは、政府支出と投資による貨幣注入が財・サービス市場を通過して家計に入った直後に貯蓄に回る貨幣循環を意味する。一巻きのコイル構造なら、家計から再度消費に回って財・サービス市場を通過した後に貯蓄に回る貨幣循環を意味する。そして1995年以前は、これら0巻きと一巻きのコイル構造から二巻きあるいはより多回数のコイル構造への貨幣の移転が年間5%前後、多くて10%存在し、消費が伸びていた(おそらくはこれが正しいトリクルダウンである)。しかし1995年以降、この貨幣量の移転は1%以下であり、政府支出と投資の増額から期待されるほど消費は伸びていない。

 本書の図6。dM/MとdV/Vの分布図。前書「マクロフロー経済学 2 貨幣循環、乗数効果、数量方程式」で得られたMとVの年変化率は、このような特徴的な傾向を示す。二点のシンボルをつなぐ直線の傾きは、コイル構造を使って解釈すると、貨幣の増減 dM/M がどの巻数のコイル構造について行われたのかを示している。そして直線の切片は、異なる巻数のコイル間で貨幣の移動がどの程度あったのかを示している。

 この図に見られる-0.4程度の傾きは、政府支出と投資の増量が0巻と一巻きのコイル構造に対して行われている事を示している。そして1995年以降の黒丸のシンボルが示す1%以下の切片は、0巻と一巻きのコイル構造からより多数巻のコイル構造(より多数回の貨幣循環)への貨幣の移動が1%以下である事を示している。

 これらの二点の結論からの帰着として、日本経済のために日本国民には貨幣が必要である。そしてそれは、国民が労働に一層励む事によって達成されるのではなく、貨幣の流れの変化によって達成される。貨幣の流れを変えれば、日本国内に貨幣が行き渡り、人々は労働力と財・サービスの十分な交換を行う事が可能になり、日本国民という人材は十二分に活用される。現在の貨幣の流れを決定づけているのは、政府と大企業の経営陣である。1995年以降の彼らの行動が日本経済を悪化させ続けている。彼らの認識が変わらない限り、貨幣循環は抑制され続け、日本経済は悪化し続ける。

 フィリップス曲線が示す物価のインフレ率と失業率の関係は、拡張された数量方程式における収入の年変化率(インフレ率)と家計総数の年変化率の関係を理解しにくいように変換した関係である。「物価のインフレ率と失業率を同時に下げる事はできない」と言われるが、この原因は市場の競争原理による収入増と家計数(労働者数)減の圧力が常に作用しているからである。


===目次===

第1章 導入


第2章 貨幣循環のコイル構造

 2.1 貨幣の流通経路としてのコイル構造

 2.2 コイル構造、平均消費性向、回転数

 2.3 名目GDPと平均回転数

 2.4 コイル構造と家計の職種

 2.5 コイル構造と乗数効果

  2.5.1 コイル構造下での定式化

  2.5.2 日本の公共事業と経済効果

  2.5.3 平均消費性向と限界消費性向

 2.6 大きな政府と小さな政府

  2.6.1 平均消費性向の変化のタイムスケール

  2.6.2 大きな政府と小さな政府の貨幣循環


第3章 数量方程式の拡張

 3.1 GDPのn面等価の原則

  3.1.1 フロー循環図とGDPの三面等価の原則

  3.1.2 数量方程式の拡張

   3.1.2.1 全家計の収入総額

   3.1.2.2 家計が受けるサービス、全家計と外部による消費総額

 3.2 拡張された数量方程式の検討

 3.2.1 一人あたりの生産量

  3.2.2 dM/M + dV/V = 0、競争原理

  3.2.3 dM/M + dV/V ≠ 0、経済規模の時間発展


第4章 解析結果

 4.1 導入

 4.2 解析結果

  4.2.1 データ

  4.2.2 各種プロット

  4.2.3 dM/MとdV/Vの傾向について

   4.2.3.1 導出に由来した傾向か

   4.2.3.2 コイル構造による定量的解釈、傾き

   4.2.3.3 コイル構造による定量的解釈、切片

 4.3 dO/OとdN/Nとフィリップス曲線

  4.3.1 フィリップス曲線

  4.3.2 dO/OとdN/Nの分布予想

  4.3.3 dO/OとdN/Nの分布

 4.4 貨幣の中立性と貨幣量


第5章 まとめ


参考文献

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