2018年10月29日月曜日

財政制度分科会(平成30年10月24日開催)の資料、科学技術(1)について


今回の記事の動機は、以下の財務省の資料。

突っ込みどころが多いので、この記事では資料の「論点6 科学技術(1)<科学技術関係予算>」についてのみ。




冒頭に「(研究低迷の)真の要因はなにか?」とあるが、興味深い指標、比較はでてくるものの、色々不十分過ぎて笑え、、、ない。

原因を推測する議論の段階で、有効な数字を出せず、「自分たちの見たいものを見る」描写が顕著になっている。


なお、財政制度等審議会 財政制度分科会 委員名簿を見ると、見事に文系の方たちばかり。

理系の研究現場から縁遠い人たちが、この資料を読んで(大して調べもせず)、「大学の研究者はけしからん。もっと予算を締め付けて競争させよう」とか気炎を上げて、国の方針に大きな影響を与えているとしたら、日本の科学技術が衰退するのも極めて自然な事に思う。






資料の53ページと54ページ


53ページより
 ① ⽇本の科学技術関係予算は主要先進国に⽐べて、伸びていないと指摘されることがある。
② しかしながら、対GDP⽐で⾒れば、主要先進国と⽐べて遜⾊ない⽔準で推移。

のっけから苦しい。

予算の推移を見れば指摘はそのとおりで、「GDP比で維持できている」というのは、論点のすり替えでしかない。

イギリスはGDP比で維持できていないが、これはGDPの増加幅が科学技術関係予算の幅を大きく上回っているため。



55ページと56ページ

要旨
日本のTOP10論文数は変わらず。
しかし、論文数全体が増加しているため、シェアは相対的に低下している。
結果、例えばドイツに比べて「論文の生産性が低い」事になる。

これは数字そのままの情報で、そのとおり。

この数字について、多くの現場の研究者(大学教員)が挙げる理由は、競争的資金の増加が研究生産性をかえって低下させている事だろう。

(現場の声の例、「(申請書に追われて)研究時間が無いからだ」、「運営費交付金を減らされて、教員数を増やせないからだ」、「施設の維持管理費まで競争的資金で賄うなんてクレイジー」)

しかし、財務省は別の方向に理由を求める。


57ページと58ページ


要旨
日本の研究者は新しい分野に進出せずに、既存の分野に固執しているのではないか?
日本の研究者は挑戦の意欲に乏しい。

財務省は、日本の科学技術の停滞の理由を、日本人研究者の資質に押し付けている。(日本の研究現場の色々な要素を無視)

これは、研究者に対する明確な敵対行動に思える。

まぁ妄言は置いといて、57ページの②の「国際的に注目を集める研究領域への参画数」では、正直日本頑張ってるなーと思うくらい。

①に研究費総額を載せるなら、予算額でも比較して欲しかった。

この参画数が少ない理由は、研究者が失敗してそれを元に次のステップに進もうとしても、資金を供給する側が失敗を許容しないから、だと推測。

(審査する研究者は違うと思いますが、資金を出す側の財務省文科省などの官僚や企業幹部、失敗(数字が良くない)して責任を取らされるのは嫌でしょう?)


③の「研究動機の日米比較」は、眉にツバして読むべき。

ここに用いられている数字は、「科学における知識生産プロセス:日米の科学者に対する大規模調査からの主要な発見事実」という一橋大学主体の研究から得られたもの。(リンク先からPDFを入手可能)

トップ1%論文と一般論文が、どういう動機で書かれたのか(それぞれの研究がどういう動機で実行されたか)を表している。

で、資料中に◯がついているのは、その論文が「具体的な問題解決」を意図しておらず、かつ「基礎原理の追求」も意図していない論文の割合。

ここの数字を以って、財務省は「日本の研究者は研究の動機が弱く、生産性が低い」とみなしている。

トップ1%論文と一般論文、そして日本とアメリカの研究に、この不明な動機が一定数含まれているから、これを以って「日本人研究者の動機が弱い」というのは筋違い。(そういう使い方をする表ではない)



研究者としては、この枠が非常に不思議。

「具体的な問題解決」を意図せず、「基礎原理の追求」も意図していない(しなかった)研究・論文とは?

この分割表は「パスツールの象限(Pasteur's Quadrant)」と呼ばれるもの、らしい。(論文ではなく著書)

パスツールの象限(3):2次元モデル (jnobuyukiのブログ)
パスツールの象限(4):名無しの象限

Stokesの原著を読んだという上の記事によると、Stokes曰く「この象限にはうまい名前をつけることができない」ほどに多様との事。

一つの推論だが、この名前のついてない象限と他の象限の違いは、研究を始める際に問題が明確なものとそうでないものの差ではないか?

研究のきっかけが、「この問題を解いて知識追求するぞ!現実問題解決するぞ!」ではなくて、「なんとなく面白そうな現象がある」で始めた研究なのではないか。

研究者は皆好奇心があって、眼の前に現象や問題が現れて、研究が進むものなので。

例えば、太陽黒点が発見された時、磁場が発見された時、はたしてそこに明確な問題解決意識はあっただろうか?

これらの発見は、挑戦意識の低い、下らない研究だったのだろうか?

トップ1%論文にも、運良く入り込んでいるだけなのだろうか?

この分割表における日米の差異は、研究趣向の偏り具合に思える。



58ページ、サイエンスマップ2014の資料、面白そうですが時間が無いので飛ばします。(追記、サイエンスマップ2016があるんだが…)




59ページから62ページ


59ページで「トップリサーチャーは若手が多い」とあるが、根拠となる「優れた成果をあげた研究活動の特性:トップリサーチャーから見た科学技術政策の効果と研究開発水準に関する調査報告書」は2006年の報告書、ここに挙げるにはちょっと古い。

トップリサーチャーは、2001年時点での過去10年間の引用数上位10%以内、で定義、アンケートは2004年に実施。

59ページの②と③のグラフは最近の数字?

これらのグラフから、シニア優位な大学組織の硬直性に話を進めて、年配者への配分を減らして若手に金とポスト?を配れ、というのは危うい。

いずれ若手は若手ではなくなるが、そうなったらクビを切られそう。

現状以外に、定常状態として機能しそうな大学モデルを財務省は持っているか?

それこそ、ドイツや他国の現状と徹底的に比較するべきではないか?


60ページの伝統分野の継承と新陳代謝の問題はその通りだが、「⼈⼯知能やビッグデータ解析など、かねて発展が確実視されていた分野の⼈材育成が、決定的に遅れてしまった。」というノーベル賞受賞者の野依良治さんの記事は、完全に後出しジャンケン。

100歩譲って個人の意見は尊重しても、研究者が分野を開拓しようとしても政府は予算をつけない(つけなかった)だろう。(財務省が元締め)


62ページの「検討の方向性」、これで大学が成果を出せるようになると財務省は本当に思っているのか?

アウトカム目標は、抽象的なレベルで済ませるなら機能しそうだが、企業が喜ぶような具体的技術レベルで設定したら永遠にどこかの国を後追いし続けて終わりそう。

誰も未来を予言できないのに、アウトカム目標が機能すると本気で考えているのか?




総じて「データから何を読み取ってんだ?」と思えるような資料でした。

こういう資料の積み重ねが国の方針を左右するのかと思うと、非常に怖く思います。



にほんブログ村 科学ブログ 自然科学へ
にほんブログ村


情報科学(計算機科学) ブログランキングへ

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿

【貨幣循環】名目GDPと M=G+I と V=1/(1-β) の成長率

「 【貨幣循環】貨幣循環導入の3点セット 」では、貨幣循環の定式化である M=G+I と V=1/(1-β) を紹介した。「 【貨幣循環】歳出伸び率とGDP成長率の関係 」では、名目GDPの成長率と政府支出Gの成長率の関係を紹介した。本記事では、MとV、および名目GDPの成長率...

人気の投稿